東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)83号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取り消すべき事由の存否について検討する。
1 成立に争いのない甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の目的について、「本発明の一つの目的は、熱可塑性材料の剪断熱発生を増大させることなく、従つて、低温にてスロツト付リングねじ設計に少なくとも匹敵しうる出力および混合を得る方法および装置を提供することにある。」(本願明細書第九頁第一五行ないし第一九行)、「本発明の一目的であり、且つ従来の技術に欠けていたと思われる特徴をなすものは、材料中の固体がねじ螺条の前に形成される融成物プール中に散逸するように、該固体を破砕する手段を有する押出機ねじを提供するにある。」(同第一二頁第二〇行ないし第一三頁第五行)、「本発明は可塑化状態に達した後の材料の完全な混合および排出または押出し直前の材料内に高度の均熱性を与えるために、従来の長さ対直径(L/D)比を有する従来の押出機の能力を向上せしめんとするものである。従つて、本発明は、バレルの直径または長さを増大させることなく、特に計測部分における押出機ねじの螺条壁間に深い溝を有する押出機ねじを用いることにより押出物の、より大きい押出速度を得る方法および装置を提供するものである。」(同第一四頁第九行ないし第一九行)とそれぞれ記載されていること、そして、本願発明の作用効果について、「ピン(47―47)の一平面を熱可塑性材料が通過すると、実質的な混合をもたらし混合物全体にわたつて均熱性が得られる。」(同第二二頁第一四行ないし第一七行)、「材料がピン(47―47)の円または平面の各々を通つて前進するとき、ピンはその高さに応じて、溝(42)内に含まれる対応高さの材料中に侵入して材料の通常の断面流を妨げて材料を混合せしめる。上述のように、ピン(47―47)を用いることにより、押出物の高度の均熱性が得られる。ピン(47―47)は融成物が螺条(41)の先導面もしくは押し面へ上流に泳動しようとする傾向を打消す傾向がある。そしてピン(47―47)を使用することによつて、融成物は螺条の追尾面に向けて押されて固体と混合し、均質な押出物が得られる。」(同第二八頁第一四行ないし第二九頁第六行)、「本発明は材料の均質化に必要な配送能力の低下を避けるものである。すなわち、融成物流の流路を細く低能力押出量にするのではなくて、本発明の原理を具体化した押出機(20)は融成物流を多数の小流に分割して、溶融材料を短時間だけ高い剪断速度にさらした後、その材料の小流を再び混合状態に合流せしめるようにしたものである。第7図に実線曲線で示したように、本発明の原理を具体化したねじ(31)は、より深い計測部分(39)を利用して高い出力能力を得ると同時に良好な混合を行なつて均熱性を得て融成物が上流へ泳動しようとする傾向を打消すのである。」(同第二九頁第一五行ないし第三〇頁第七行)とそれぞれ記載されていることが認められる。
右認定の各記載内容及び前示本願発明の構成によれば、本願発明は、計測部に設けられたピン(力発生要素)が、圧縮部においてほとんど可塑化状態になつて計測部に送られてくる熱可塑性材料の混合を行い、圧縮部で溶融されなかつた若干の固体(粒子)を破砕して、混合物全体の均熱性を得させるものであることが認められる(押出効果については後述する。)。
2 ところで、引用例には、回転軸のまわりを旋回する押出しスクリユーを有し、押出しスクリユーの溝を規定する壁に切れ目を設けることなくスクリユー軸の谷間に小突起を複数個設けた熱可塑性合成樹脂押出成型機(別紙(三)参照)に関する発明が記載されていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四号証によれば、引用例の発明の詳細な説明には、「本発明はスクリユウ軸の回転により合成樹脂の粉粒を加熱、シリンダー中を推進せしめつゝ溶融して押出成型機の樹脂混練効果を向上することを主な目的とするものであるが、更に溶融した後の混練のみならず溶融前の粉粒混合効果をも向上し、溶融能力を向上することをも目的とするものである。」(引用例第一頁左欄第八行ないし第一三行)、「本発明の押出成型機のスクリユウ軸では、谷間に多数の小突起6があつて、上述のヘリカル層流はこれに衝突して乱流となるから混練が充分に行われる。」(同第一頁右欄第二一行ないし第二六行)と記載されていることが認められる。
右認定の記載内容によれば、引用例記載の押出成型機において、スクリユー軸の谷間に設けられた小突起は力発生要素であつて、合成樹脂の混練を充分に行うものであることは明らかである。
ところで、引用例には、引用例記載の押出成型機に使用すべきスクリユー軸の形状については明記されていないが、本件出願当時、圧縮逃がし部とそれに隣接する計測部を有する押出成形機のスクリユーが公知であつたこと及び計測部において熱可塑性材料の混練、混合が行われることはよく知られていたことは当事者間に争いがなく、更に、この種の押出成形機において計測部に送られてくる熱可塑性材料はすでにほとんど溶融しており、したがつて、計測部より前の部分に小突起を設けるよりも計測部に小突起を設ける場合の方が破砕抵抗が少なく、混練、混合効果も大きいことは技術常識であつて、当業者にとつて自明の事項であることをも併せ考えると、引用例記載の発明に圧縮逃がし部とそれに隣接する計測部を有するスクリユー軸を採用し、混練、混合を目的とする小突起を計測部に設けるように構成することは当業者が容易になしうる程度のことと認めるのが相当であり、前記のとおり、引用例記載の発明における小突起も「溶融した後の混練のみならず、溶融前の粉粒混合効果をも向上」せしめるものであるから、引用例記載の発明に前記構成を採用した場合、計測部に送られてくる材料中に圧縮部で溶融されなかつた若干の固体(粉粒)が含まれていたとしても、小突起によつて充分な混練が行われ、そのために混合物全体に均熱性が付与されて均質な溶融物が得られるものと考えられ、したがつて、混合物全体の均熱性が得られるという本願発明の前記作用効果は、引用例から予測しえない格別顕著なものであるとは認め難い。
なお、原告は、本願発明においては溶融温度を低く保持しつつ混合がなされる旨主張するが、計測部に力発生要素を設けた場合には他の部分にこれを設けた場合よりも破砕抵抗が少なく、したがつて、溶融温度も相対的に低く保持されることは自明のことであるから、この点に作用効果の顕著性を認め難いことは明らかである。
3 原告は、本願発明に係る押出機においては、溶融材料の均熱性とともに、格段に高排出量の溶融物が得られる旨主張する。
前掲甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明及び本願願書に添附された第7図(別紙(二)参照)には、本件出願当時公知の、スクリユー軸に小突起を有しない圧縮逃がし式スクリユーを用いた押出機、圧縮逃がし部を備えず、ねじ山が切断されているスロツト付リングスクリユーを用いた押出機及び本願発明の実施例による押出機についての押出量対ねじ速度の比較結果(押出量曲線)において、本願発明の実施例による押出機が他のものに比しすぐれた押出能力を有するものである旨記載されていることが認められるが、右のとおり、比較結果に用いられたものは、小突起を有しないもの、あるいは圧縮逃がし部を備えず、ねじ山が切断されているものであるから、これら公知の押出機との対比において、本願発明の実施例による押出機が前記のような効果を奏するものであるとしても、引用例記載の発明における小突起を圧縮逃がし部を有する前記公知のスクリユー軸に設けた場合との対比において格別すぐれたものであるという根拠にはなりえないものというべきである。
そして、他に、本願発明に係る押出機が格段に高排出量の溶融物を得させるものであることを認むべき資料はない。
なお、原告は、本願発明において、ねじ山がピンによつて切断されていないことも溶融物の排出量を増加せしめる一要素となつている旨主張するもののようであるが、引用例記載の発明におけるスクリユー軸の山部2(ねじ山)も小突起6によつて切断されていないから、この点は本願発明に係る押出機と差異はなく、したがつて、ねじ山が切断されているか否かによつて排出量に影響を及ぼすものであるとしても、本願発明に係る押出機が引用例記載のものよりも押出能力の点ですぐれているとは認められず、原告の右主張は採用できない。
次に、原告は、本願発明においてはピンをスクリユー軸の長手方向に直角に配置することにより、スクリユー軸の溝の断面積を小さくすることなく熱可塑性材料の混合を行い、均質な溶融物を高排出量で得ることができるが、引用例記載の発明においてはスクリユー軸の谷間に多数の小突起をスクリユー軸に平行な平面内、すなわち材料の流れの方向にほぼ直角な平面内に配置するものであるから、材料の流れに対する圧力が増加し、そのために溶融温度は上昇し、溶融材料の出力は減少する旨主張する。
しかしながら、まず、溶融材料の混練、混合、そしてそれに伴う均熱化は、専ら力発生要素によつてもたらされる効果であることは前記説示のとおりであるところ、本願明細書には、ピンをスクリユー軸の長手方向に直角に配置することによつて、溶融材料の混練、混合、それに伴う均熱化が特に増進されることを示す記載はないし、他に右の点を裏付けるべき資料もない。
そして、前掲甲第四号証によれば、引用例には、実施例として、小突起がスクリユー軸に平行な平面内に配置されたものが示されていることが認められるが、引用例記載の発明の特許請求の範囲は、「スクリユウ軸の谷間に多数の小突起を設けたことを特徴とする押出成型機。」というものであり、引用例の発明の詳細な説明の項には前2項掲記のとおりの記載があるから、引用例には、小突起の配置が特定のものに限定された押出成型機が開示されているのではなく、小突起は混練、混合を充分行えるように適宜配置しうるものとして示されているものと解するのが相当であつて、引用例記載の発明において、小突起はスクリユー軸に平行な平面内に配置されているものに限定されていることを前提とする原告の主張は理由がないものといわざるをえない。
更に、前掲甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、「ピン(47―47)の個数、その位置、直径および間隔は押出機(20)の特定の適用例、融成物の温度、押出される可塑性形状の種類、押出機に給送される材料の種類、ねじ(31)の直径その他の関連変数に応じて可変である。」(本願明細書第二二頁第九ないし第一四行)と記載されていることが認められ、右記載によれば、本願発明に係る押出機においては、引用例記載の押出成型機よりも、例えば配置すべきピン(小突起)が少なくてすみ、スクリユー軸の溝の断面積が大きいとは必ずしもいえないことは明らかであつて、この点からしても、原告の前記主張は理由がない。
以上のとおり、本願発明が奏する溶融材料の均熱化及び溶融物の押出効果は、三要素の組み合わせによつてもたらされるものではないし、そもそも溶融材料の均熱化という作用効果は引用例から予測しえない格別顕著なものとは認め難く、また、押出能力も格別すぐれたものとはいいえないのであつて、審決が本願発明の奏する作用効果について顕著性を認めなかつた点に誤りはなく、審決には原告主張のような違法は存しないものというべきである。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
回転軸のまわりを旋回する少なくとも一個の押出しスクリユーを有し、処理されるべき材料に複数個の力を加える力発生要素の全てが平面内に存在するようになされている熱可塑性材料を処理する装置において、
複数個の環状平面を有する力発生要素(46)が押出スクリユー(31)の圧縮逃がし部(38)に隣接する計測部(39)に設けられており、前記力発生要素の平面は回転軸の長手方向に直角をなし、かつ前記押出しスクリユーの溝(42)を規定する壁(43)が前記力発生要素の平面との交差部で中断されないことを特徴とする熱可塑性材料を処理する装置。
(別紙(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
別紙図面(二)
<省略>
別紙図面(三)
<省略>